<第一夜> エスプリの真骨頂、エルメスという「生き方」。

 エルメス国立新美術館と共催した展覧会『彼女と。』。7月11日から30日まで3週間のみの会期で、しかも予約制という非常にレアな催しだった。 

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メインのポスター

 Webサイトによると「エルメスが提案する現代的女性像の考察をテーマとし、シネマ(映画)的設定の観客参加型の展覧会」という内容。実際には、美術館の展示室内に設置された映画の撮影現場をめぐりながら、エルメスを体感するという企画展なのだ。 

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ピンクの色調でコーディネートされたロビー

    展示は7つのセットと5つのバックステージからなる。ストーリーとしては、一人の「作家」が「彼女」の存在を追いかけ、「観客」はエキストラとして「作家」とともに会場内をめぐるという内容。セットでは「彼女」をよく知る3人の人物との出会いと「彼女」にまつわる映像、バックステージでは「彼女」が愛用しているエルメスのオブジェを介して、思い思いにその人物像を探っていく趣向だ。

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ブックレットとIDタグ

 所要時間は約45分。実際には1人の「作家」と30名ほどの「観客」が一団となり、案内役のスタッフの先導で会場内を観覧する。「作家」はアクターとして、「観客」はエキストラとして、ともにあらかじめネット予約した参加者だが、1集団につき作家は1人しか枠がないので、体験できる人数は圧倒的に少ない。 

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STAGE①「友人との出会い」の撮影風景。青いスカーフの女性が作家役の参加者

 7つのセットのうち3つでは、「作家」がアクターとしてちょっとした演技を伴う撮影やリハーサルに臨み、それを50人の「観客」がエキストラとして見守る。他の4つのセットでは、撮影が終わったばかりの映像がモニターに流れていたり、撮影に参加した俳優たちが余韻に浸っていたりする。さらに各バックステージにはエルメスの製品が衣装や小道具として置かれ、最後には「彼女」の女優としての控室やプロデューサーの小部屋まである。  

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舞台裏では衣装や小物をストック

 つまりは、会場全体が映画の撮影現場を模したエルメスの「ショールーム」という印象。しかし撮影現場ゆえ、間違っても値札は付いていない。あくまでも「衣装」であり「小道具」なのだ。つまりは、店舗とは異なる、商業ベースを離れた時空間でこそ、エルメスの「エスプリ」が際立つということか…。そこには、単なるラグジュアリーブランドの域を超え、価値観やセンス、そして精神面をも含めた、ライフスタイル全般を貫くエルメスという「生き方」が感じられた。 

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STAGE②「恋人との出会い」の撮影風景。右端の作家役とSkypeでのやり取りという設定

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メイク&ヘアブース

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鏡の前には小物類

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積み重ねられた衣装ケース

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衣装ケースに置かれたスカーフ

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ケースの中のバングル

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トルソーと小物類

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STAGE④「友人による回想シーン」のセット

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④のストックブース

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STAGE⑤「恋人による回想シーン」。アルファのスパイダーか? 撮影済みの映像が左のモニターに流れている

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⑤のストックブース。中央のバーキンは40? メンスでもイケる?

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思わず吸い寄せられるストックブース

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ケリーのカラバリがっ!!

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ボ、ボリードのスペシャル版?

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ここにもケリーが…

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スカーフの置き方がエレガント

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木製トレイに注目!

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細部まで芸が細かい

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買えそうなのは、どれ?

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あくまでも小道具というディスプレイ

 それにしても、これだけの手間暇とお金をかけ、趣向を凝らした展覧会が、たった3週間の会期とは実にもったいない。せめて3ヶ月ぐらい、開催してもいいのではないか? 常設のパビリオンとしても十分成り立つクオリティで、しかも入場無料とは大した太っ腹。経営的にも成功しているメゾンだからこそ、できる荒技か。
  
 その割に、「わたくしはバーキンを複数所有しております」とかいう風体の観客は、見当たらなかった。現実には、それらの顧客がエルメスを支えているにも関わらずだ。

 ただ、自分の前に夫妻で並んでいた穏やかな物腰のご婦人は、つま先にピアノの鍵盤が描かれた白いエナメルのパンプスを履いていた。

 そういう人が、ぴったり似合う展覧会だったのである。

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ロビーにだけあった別バージョンのポスター

 <参考リンク>
エンドロールのフォトムービー